Aevar Stone-Singer のバックアップ(No.1)

Top/Aevar Stone-Singer

邦題 岩の歌い手Aevar
原題 Aevar Stone-Singer
著者 不明

 

 

「坊や、静かに座って、お聞きなさい。私の語って聞かす物語は、ずっとずっと語り継がれてきたものだからね。」

 

「でも、お爺さま、それは何なのですか? それは英雄と野獣の物語なのですか?」

 

祖父は辛抱づよく子供を見つめた。彼は好少年に育ってきていた。間も無く、各々の世代に伝えられてきた物語や教訓の価値に彼は気づくことになるだろう。

 

「よくよく、お聞きなさい。この物語を心の中に根付かせなさい。」

 

† † †

 

昔々、Skaalが新参者であり、この地に平和が保たれていた頃のことである。太陽は暖かく作物は長々と生い茂り、〈全創造主〉〔All-Maker〕の創り出す平和の内に人々は幸福であった。しかし、Skaalは独善と怠惰に陥って、〈全創造主〉の与え給う大地と在らゆる贈物を当然のものとして考えるようになった。〈仇敵〉〔Adversary〕が常に見張っていることを、そして、〈仇敵〉が〈全創造主〉と彼の選民〔Skaal〕を喜んで苛めることを、彼らは忘れてしまった、いや、覚えておかないことを選んだ。だからこそ、〈仇敵〉はSkaalの間に遣ってきたのである。

 

〈仇敵〉の外見は数多である。彼の姿は、不浄の野獣であり、不治の疫病である。〈四季の終わり〉〔End of Seasons〕に際して、我々は彼を〈世界を貪り喰う者〉〔World-Devourer〕Thartaagとして知ることになるだろう。しかし、この時代に於いて、彼は〈ごうつくばり〉〔Greedy Man〕として知られるようになっていた。

 

〈ごうつくばり〉(こうして我々は彼を呼ぶけれど、それは、彼の名を口に出すならば我々は確実に破滅してしまうだろうからである。)は幾月にも亘ってSkaalの間で暮らした。恐らく、かつて彼は普通の人間に過ぎなかったであろうが、〈仇敵〉が彼に入り込み、彼は〈ごうつくばり〉になってしまった――このように彼は記憶に留められているのである。

 

Skaalの諸力が彼らの下を立ち去る日が訪れた。腕力は戦士の両腕から立ち去り、最早、シャーマンは味方の野獣を召喚できなくなった。老人たちは、きっと〈全創造主〉が不興を覚えたのであろうと考えて、ある者達は、〈全創造主〉が彼らの下を永遠に立ち去ったのであると仄めかした。そこで、〈ごうつくばり〉は彼らの前に姿を現して言った。

 

「Skaal諸君は肥えて怠けるようになってしまった。私は諸君の〈全創造主〉の贈物を盗んだ。私は海原を盗んだ、それ故、諸君は永遠に喉の渇きを覚えるだろう。私は大地と樹々と太陽を盗んだ、それ故、諸君の作物は萎れて枯れるだろう。私は野獣を盗んだ、それ故、諸君は空腹を抱えるだろう。そして、私は風を盗んだ、それ故、〈全創造主〉の魂なくして諸君は生きるだろう。

 

そして、これらの贈物を諸君の内の誰かしらが取り戻し得るまで、Skaalは悲惨と絶望の中で生きていくだろう。何故なら、私は〈ごうつくばり〉であり、それが私の本性であるからだ。」

 

そして、〈ごうつくばり〉は姿を消した。

 

Skaalの面々は幾日も幾夜も話し合った。彼らは自分たちの内の誰かしらが〈全創造主〉の贈物を取り戻さねばならないことを知っていたが、それが誰であるべきなのか心を決められなかった。

 

「私は行けない。」老人は言った。「何故なら、私は留まり我々Skaalを導かねばならず、我々の民衆に法の何たるかを説かねばならないからである。」

 

「私は行けない。」戦士は言った。「何故なら、私はSkaalを守らねばならないからである。〈ごうつくばり〉が再び姿を見せる場合には、私の剣は必要とされるだろう。」

 

「私は行けない。」シャーマンは言った。「何故なら、人々は私の知恵を必要とするからである。私は兆を読み知識を与えねばならない。」

 

そこで、Aevarという名の少年が声を上げた。彼は、まだSkaalの戦士ではなかったけれど、力強い腕と素早い脚の持主であった。

 

「僕が行こう。」Aevarが言うと、Skaalたちは笑った。

 

「最後まで聞けったら。」その少年は続けた。「まだ僕は戦士ではない、だから、僕の剣は必要とされないだろう。僕は兆を読めない、だから、人々は僕の助言を求めないだろう。それに僕は若い、だから、まだ法の道に詳しくない。僕が〈ごうつくばり〉から〈全創造主〉の贈物を取り戻そう。それが果たせなかったとしても、誰も僕を悲しがらないだろう。」

 

これについてSkaalたちは少しく考えて、そして、Aevarを行かせることに決めた。翌朝、贈物を取り戻すため、彼は村を出発した。

 

彼は最初に〈水の贈物〉を取り戻すことにして、そのため、〈水の岩〉のところに足を運んだ。そこで、まず〈全創造主〉が彼に話しかけてきた。

 

「西に進み海に行け、そして、〈命の水〉〔Waters of Life〕へ〈泳ぎ手〉〔Swimmer〕の後に従え。」

 

そして、Aevarは海の端へ歩いて行って、すると、〈全創造主〉に送られてきた〈泳ぎ手〉たる1匹のBlack Horkerが居た。〈泳ぎ手〉は海に潜り込みスイスイと泳いで行った。Aevarは力強かったが、しかし、彼は苦しみ泳いだ。深く深く泳いで行って、肺は焼き付き手足は疲れ切りながらも、彼は〈泳ぎ手〉の後に従い洞窟に辿り着いた。ようやく彼は空気だまりを見つけて、その暗がりに〈命の水〉を見出した。彼は力を掻き集め、〈水〉を手にして海岸に泳いで戻った。

 

〈水の岩〉のところに戻ってくると、〈全創造主〉が話しかけてきた。「汝は〈水の贈物〉をSkaalの下に戻した。海は再び実を結び、彼らの喉の渇きは癒されるだろう。」

 

そして、Aevarは〈地の岩〉のところに足を運んで、すると、そこで〈全創造主〉が彼に再び話しかけてきた。

 

「〈秘密の音楽の洞窟〉〔Cave of the Hidden Music〕に入り込め、そして、〈地の歌〉〔Song of the Earth〕を聴け。」

 

そして、Aevarは北東の〈秘密の音楽の洞窟〉に足を運んだ。彼は我が身が大洞窟の内に在ることに気づいた。そこでは、岩々は天井から吊り下がり独りでに地面から生え伸びていた。そこで彼は耳を澄まし〈地の歌〉を聴いたが、それは微かなものであった。彼はメイスを掴み上げると歌に合わせて床の岩々を打ち据え、すると、大洞窟と彼の心中を満たすまでに歌は声高になっていった。そこで、彼は〈地の岩〉のところに戻って行った。

 

「〈地の贈物〉は再びSkaalと共に在る。」〈全創造主〉は言った。「地は再び富み、そして、命を育むだろう。」

 

太陽は彼を焼き、樹々は木陰を与えず、体を冷やす風は吹かないので、Aevarは疲れてしまっていた。それでも、彼は〈獣の岩〉のところに足を運んで、すると、〈全創造主〉が話しかけてきた。

 

「〈善き獣〉〔Good Beast〕を見つけ、彼の傷を癒せ。」

 

Aevarは何時間もIsinfierの森の中を進み、すると、丘の上から熊の叫びが聞こえてきた。彼は丘の頂に達して、Falmer〔雪エルフ〕の矢に首を貫かれている1頭の熊を見つけた。彼はFalmerの森(そうではないと言う者も在るが、その森はFalmerのものであったから。)に注意して、何の人影も見つからなかったので、その獣に近づいていった。彼は労わりの言葉を口にして、こう言いながら、ゆっくり近づいていった。「〈善き獣〉よ、君を傷つける意図は僕に無いよ。君の傷を癒すため、〈全創造主〉は僕を遣わしたのさ。」

 

この言葉を耳にすると、その獣はもがくのを止めてAevarの足元に頭を横たえた。Aevarは矢を掴んで熊の首から引き抜いた。彼の心得ているちょっとした自然魔法を用いて、Aevarは傷の手当を行った――それは、彼の力の最後の一かけらまで要したが。熊の傷が閉じると、Aevarは眠った。

 

目を覚ますと、熊は彼を覆うように立っており、周囲にはFalmerの大量の死体が散乱していた。夜の間は、この〈善き獣〉が自分を守ってくれたのだと彼は知った。彼は熊を従え〈獣の岩〉のところに戻ってきて、すると、〈全創造主〉が彼に再び話しかけてきた。

 

「汝は〈獣の贈物〉を取り戻した。〈善き獣〉は、今一度、空腹に陥ったSkaalの腹を養うだろう、寒冷に陥ったSkaalを服で覆うだろう、必要時に在らばSkaalの身を守るだろう。」

 

Aevarは力を取り戻し、そして、〈善き獣〉は後を従わなかったが、彼は〈樹の岩〉のところに足を運んだ。彼が辿り着くと、〈あらゆる父祖〉〔All-Father〕は彼に話しかけてきた。

 

「〈始まりの樹々〉〔First Trees〕は枯れてしまった、それ故、ふたたび植えねばならない。種を見つけ、〈始まりの樹〉〔First Tree〕を植えよ。」

 

〈始まりの樹〉の種を捜して、Aevarは再びHirstaangの森の中を進んだが、何も見つかることは無かった。そこで、生きている樹々すなわち樹々の精霊たちに彼は話しかけてみた。彼らの話によれば、その種は1人のFalmer(彼らは〈仇敵〉の従僕であるから。)に盗まれて、そして、このFalmerは、決して誰の手にも渡らないように、それを森の奥に隠してしまったのだった。

 

Aevarは森の最も奥まったところに足を運んで、そこで、下級の樹々の精霊たちに囲まれている、その邪なるFalmerを見つけた。その精霊たちは彼の奴隷になってしまっていることに、そして、彼は種の魔法を用いて精霊たちの秘密の名前を唱えてしまったことに、Aevarは気づいていた。それほどの武力に抗う術は無いことを、それ故、その種をコッソリと取り戻さねばならないことをAevarは分かっていた。

 

Aevarはポーチに手を入れ火打石を取り出した。そのFalmerと彼に魔法で操られている精霊たちがひしめいている空地の外側で、彼は葉を集めて小さな火を起こし始めた。Skaalならば誰でも、樹の精霊が炎を憎々しいと感じていることを心得ている――炎は、その精霊が仕えている樹を駄目にしてしまうから。すぐさま樹の精の本性が働いて、彼らは火を消そうと駆けていった。その慌しさの合間に、Aevarはコッソリと当のFalmerの背後に忍び寄り種の入ったポーチをひったくると、その種が無くなってしまったことに邪なる者が気づく前にヒッソリと立ち去った。

 

Aevarが〈樹の岩〉のところに戻ってきて、その樹を土に植えると、すると、〈全創造主〉が彼に話しかけてきた。

 

「〈樹の贈物〉は回復した。今一度、樹々と植物は花を付け生い茂り、そして、食物と木陰を与えるだろう。」

 

太陽は只管に彼を焼き、体を冷やす風は依然と吹かないので、Aevarは疲れてしまっていた――しかし、彼は木陰で少しく体を休めた。足は疲れて目は重たく、しかし、彼は引き続き〈太陽の岩〉のところに足を運んだ。またもや、〈全創造主〉が話しかけてきた。

 

「太陽の穏やかな暖かさは盗まれてしまった、それ故、いまや只管に焼くばかりである。〈〔日食の〕半影の館〉〔Halls of Penumbra〕から太陽を解き放て。」

 

そして、Aevarは西に歩き、凍土を越えて〈半影の館〉に達した。その中の空気は霞んで重たく、腕の端から先は何も見えない程であった。よたよたした自分の足音を聞きながらも、そして、この場所には自分の肉を引き裂き其の亡骸を腹に収めてしまうだろう不浄の獣どもが潜んでいることを知りながらも、それでも、彼は壁に沿って手さぐりで道を進んで行った。何時間も忍び歩く内に、その館の遠く端の方に、微かな明かりを彼は目にした。

 

そこでは、一点の隙も無い一枚の氷の陰になりながらも、その明かりが大いに光量を増してきていて、彼は両の瞳を閉じずには居られなかった――さもなければ、彼の瞳は永遠に光を失ってしまったであろう。彼は不浄の獣どもの1匹から燃え立つ瞳を引き抜くと、それを氷に向けて力一杯に投げ付けた。小さなヒビが氷の上に現れ、それは大きくなっていった。ゆっくりと、その光はヒビの間から忍び出てきた――ヒビを広げて、氷の壁を粉々に引き裂きながら。耳をつんざく鋭い音と共に壁はバラバラになって、そして、その明かりはAevarの頭上と館中を駆足に広がっていった。不浄の獣どもが瞳を奪われて身を焼かれた、その絶叫を彼は耳にした。彼は光に導かれて館から駆け出し、そして、館の外の敷地に崩おれた。

 

再び立ち上がれるようになると、太陽は再び彼の身を暖めて、そのことに彼は感謝の念を覚えた。彼が〈太陽の岩〉のところに戻ってくると、〈全創造主〉が彼に話しかけてきた。

 

「〈陽の贈物〉は、今一度、Skaalの物である。それは彼らに暖かさと明かりを与えるだろう。」

 

Aevarは最後に〈風の贈物〉を取り戻さねばならなかった、それ故、島の遥か西の海岸に在る〈風の岩〉のところに足を運んだ。彼が辿り着くと、最後の課題を与えるため、〈全創造主〉が彼に話しかけてきた。

 

「〈ごうつくばり〉を見つけ、彼の束縛から風を解き放て。」

 

そして、〈ごうつくばり〉を捜してAevarは地を歩き回った。彼は樹の中を見たが、そこに〈ごうつくばり〉は隠れていなかった。付近の海にも洞窟の奥にも彼は隠れておらず、暗い森の中で彼を見たという獣も居なかった。ついにAevarは一軒の捻じ曲がった家を訪れて、そして、そこで〈ごうつくばり〉を見つけるだろうと彼は分かっていた。

 

「私の家を訪ねようとする、」〈ごうつくばり〉は叫んだ。「君は誰だ?」

 

「僕はSkaalのAevarだ。」Aevarは言った。「僕は戦士でもシャーマンでも老人でもない。たとえ僕が戻らないとしても、誰も僕を悲しがらないだろう。しかし、僕は海と地と樹と獣と陽を取り戻したし、僕は人々に風を取り戻してみせよう――僕らの魂の内に〈全創造主〉の魂が再び感じられるように。」

 

その言葉に合わせて、彼は〈ごうつくばり〉のバッグを掴み上げ、それを破って開けた。風は突風の勢いでもって脱け出し、〈ごうつくばり〉を巻き上げ島から遠くへ運び去ってしまった。Aevarは風を吸い込み感謝の念を覚えた。彼は〈風の岩〉のところに歩いて戻って、すると、〈全創造主〉が最後に彼に話しかけてきた。

 

「でかした、Aevar。Skaalの最も幼い者よ、汝は私の贈物を彼らに取り戻した。〈ごうつくばり〉は今のところ立ち去り、汝の生涯の間に再び人々を苦しめることは無いはずである。汝の〈全創造主〉は歓喜の念を覚える。さあ行け、自身の本性に従って生きよ。」

 

そして、AevarはSkaalの村に通ずる帰路を歩き始めた。

 

† † †

 

「それから、どうなったのです、お爺さま?」

 

「どういうことかな、坊や? 彼は家に帰ったのだよ。」

 

「いえ。彼が村に帰ってから、」子供は続けた。「彼は戦士になったのですか? それとも、シャーマンの道を教えたのですか? Skaalの戦を導いたのですか?」

 

「それは分からない。これで話は終わりなんだよ。」祖父は言った。

 

「でも、終わりなんてものではないもの! 話の終わるようなところではないもの!」

 

その老人は笑って椅子から立ち上がった。

 

「そうでしょう?」


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