Vanilla/Books/Book3ValuableArgonianAccountBook4 のバックアップ(No.1)

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第4巻

 

Decumus Scottiは溺れていて、さして物を考えられなかった。Argonianの農夫が放った麻痺の呪文のせいで、泳ごうにも彼の腕も脚も動かせないのであった。が、それほど沈み込むことは無かった。Onkobra河の、その水面と河流は、大岩も容易に運び去る激しい勢いを具えており、そのため、Scottiは上に下になりながら、アチコチぶつかりながら、転げ回り跳ね回りながら、流されていった。

 

彼は思った――もうすぐ自分は死んでしまうだろうが、それはBlack Marshに居るよりはマシだろう。その肺が水で満たされた時にも、彼は決して取り乱すことは無かった。そして、冷たい暗闇が彼の上に降りてきた。

 

† † †

 

しばらく、その最初の内には、Decumus Scottiは平安を覚えていた。聖なる闇。それから苦痛が遣ってくると、腹と肺から水を吐き出しながら咳き込んでいる自分に彼は気づいた。

 

誰か声が言った。「おやまあ、奴さん生きているんじゃないのか? そら。」

 

その瞳を開けて眼前の顔を目にした時でさえ、そのことが事実であるとはScottiは殆ど信じられなかった。それはArgonianだったが、しかし、何処で見かけた物とも異なる風貌だった――その顔は細くて、まるで細槍のように長くて、鱗はルビー・レッドで陽の光に輝いていた。彼は驚いたように、その目蓋を垂直のスリットで開けたり閉じたりしながら眼〔まなこ〕を瞬かせた。

 

「俺らはアンタを取って喰おうって思ってんじゃないよ。いや、そうするべきかね?」その生物が微笑を浮かべると、その歯並からして、それが決して根拠の無い提案ではないことがScottiに分かった。

 

「ありがとう。」Scottiは弱々しく言った。その「俺ら」が誰なのか知ろうと首をやや伸ばした彼は、穏やかな泥河の泥濘めいた河辺に居り、そして、似たような針状の顔つきと虹色が全て揃う鱗を具えたArgonianの一団に囲まれていることに気づいた。ブライト・グリーンに、宝石めいた紫と青と橙。

 

「教えて下さい、私が居るのは、その、何処の近くなんです?」

 

ルビー色のArgonianは笑った。「そうだね。アンタが居るのは、あらゆる場所の中心、そして、何処でもない場所の近く。」

 

「ええっと。」そうScottiは言うと、Black Marshに於いて場所というものは余り重要ではないということを理解した。「それで、貴方達は何者なんです?」

 

「俺らはAgacephsだよ。」ルビー色のArgonianは答えた。「俺はNomu。」

 

Scottiは素性を話した。「私は帝都のVanech建設会社の事務主任でして。私の仕事は、ここを訪れて通商上の問題の解決を試みることだったのです、が、メモは無くすし、GideonのArcheinsという人にも、落ち合う手筈の誰にも会えないし……」

 

「帝国に迎合した、偉ぶった奴隷商の泥棒役人だな。」レモン色の小柄なAgacephが幾らか反感を込めて呟いた。

 

「……それで、もう、私は家に帰りたいだけなんです。」

 

まるで招かれざる客がパーティーから立ち去るのを目にした嬉しそうな主のように、その長い唇を弓形に吊り上げNomuは微笑した。「Shehsがアンタを案内してくれるだろう。」

 

その不満紛々たる小柄な生物のShehsは、その仕事を少しも喜んでいないようであった。驚くべき力で彼に持ち上げられたScottiは、すぐさま、地下急行に通ずる泡だつ泥濘の中へとGemullusに落とし込まれたことを思い出した。その代わり、水面に揺れる、剃刀のように薄いチッポケなイカダの方へShehsはScottiを突き出した。

 

「貴方達は、これで旅するんですか?」

 

「俺らは、外の仲間が使ってるような、壊れ掛けの荷馬車も死に掛けの馬も持ってないのさ。」小さな眼をクルクルさせながらShehsは答えた。「これより良い手は知らないね。」

 

そのArgonianは船の後尾に座り込むと、鞭に似た尾を使って、その船を前進させ舵を取った。数百年分の腐敗物による悪臭が立ち昇り渦を巻くヘドロだまりを幾つも渡り、頑丈そうだが静水の少しの小波で突然にバラバラになる先の尖った〔泥の〕山々を幾つも過ぎ、かつては金属であったかも知れないが今は錆の塊である橋を幾つも潜り、彼らは急いで進んでいった。

 

「Tamrielの何もかもBlack Marshに流れ着くのさ。」Shehsは言った。

 

滑るように水の上を進みながらShehsがScottiに説明したところによれば、Agacephsは、この属州の内陸に、Histの近辺に住んでいる、外の世界に殆ど見るべき価値を見出さない多数のArgonian部族の1つであった。Scottiは、幸運にも、その彼らに発見されたのであった。Naga、蛙に似たPaatru、翼の在るSarpaであれば、即座に殺されてしまったことであろう。

 

その他にも、避けるべき生物は居た。Black Marshの内陸には自然の肉食動物が幾らか生息しているが、そのゴミ漁りの腐肉喰らいは、まずもって、生きた獲物から引き下がらないものであったのだ。Scottiが西の方で見かけた連中のように、Hackwingどもが頭上を旋回していた。

 

Shehsは口を噤みイカダを完全に止め、そして、何かを待った。

 

ScottiはShehsの視線の先に目を遣ったが、その汚水の中には異常な物は何も見当たらなかった。それから、彼は気づいた――彼らの目前に在った緑色のヘドロだまりが、かなりの速度で一方の河岸から地方の河岸へと現に動いていた。それは葦原に流れ上ると、小さな亡骸を後に残して、そして姿を消した。

 

「Voriplasmだ。」Shehsは小舟を再び前に進めながら説明した。「つまりだな。奴に掛かれば、たちまち、アンタは骨まで剥かれちまうのさ。」

 

Scottiは、彼を取り囲む光景と悪臭から逃げ出したい気持になって、この舵取を極上の語彙でもって賞賛するべき頃合であると思った。それは、2人の文化の隔たりを考えれば、なかなか感銘ぶかい様子であった。東方のArgonianは、実際のところ、かなりのお喋りであったのである。

 

「連中は、20年前、この近くのUmpholoにMaraの寺院を建てようとした。」Shehsが説明すると、無くす前に読んだファイルに書いてあった其のことを思い出し、Scottiは頷いた。「最初の1ヶ月の内に、沼の腐り病でもって、みんな酷い在り様で死んじまったけど、非常に素敵な本を何冊か残してくれた。」

 

巨大でゾッとする代物を目にして、Scottiは身を止め凍り付き、それについて彼は詳しく尋ねようとした。

 

前方で水の中に半ば沈んでいたのは、9フィートの数本の鉤爪の上に横たわる、針の山であった。白眼は盲いたように前を睨み付け、そして、不意に、その生物は全身を痙攣させよろめき、口の顎を突き出し血糊のこびりついたヒダを晒した。

 

「Swamp Leviathan〔沼の巨獣〕だよ。」Shehsは感心したように口笛を吹いた。「とても、とても、危険だ。」

 

Scottiは息を呑み、思案した――どうして、これほど、このAgacephは冷静であるのか。そして何よりも、どうして、その獣の方に彼はイカダの舵を取り続けているのか……。

 

「世界中の在らゆる生物の中で、鼠は時に最悪の生物だ。」そうShehsが言うと、その巨大な生物は抜け殻に過ぎないことにScottiは気づいた。その身じろぎは、あちこちの皮膚から破り入り獣の中に潜り込み内から外からセカセカと食い進む、その数百匹の鼠によるものであった。

 

「まったくです。」そうScottiは言うと、彼の心は、Black Marshに於けるImperialの40年間の業績であるところの、泥に深く埋もれたBlack Marshの〔様々な生物について記述していたであろう〕ファイルに向かった。

 

Black Marshの中心を通って、2人は西の方に進んで行った。

 

ShehsはScottiに見せてくれた――Kothringiの広大で複雑な都心の廃墟を、シダと花草の野原を、青いコケの天蓋の下の静流を、そして、Scottiの人生の内で最も驚嘆するべき風景、つまり、Histの木々が盛んに繁殖する広大な森林を。Slough Point(そこでは、ScottiのRedguardの案内人Mailicが辛抱づよく待っていた)の直ぐ西に在る帝国通商街道の端に着くまで、彼らは1人の人間も決して見かけなかった。

 

「もう2分、頂けますか?」そのRedguardは顔を顰めると、その最後の食物を足元の〔残飯の〕堆積の上に落とした。「もう結構です、サー。」

 

† † †

 

Decumus Scottiが帝都に馬で乗り入れた時には太陽は晴れ輝いており、そうして加えられた朝露によって、あたかも彼の到着に合わせ磨き直されたかのように、あらゆる建物は光沢を放っていた。この街は何と清潔であるか、そう彼は驚いた。それに、乞食は何と少ないことであるか。

 

Vanech建設会社の長大な建物は、いつもと変わらぬ姿であるが、やはり、その外観は酷くエキゾチックで奇妙に思われた。それは泥に覆われていないのであった。その中の人々は、まさしく、たいてい、働いているのであった。

 

Vanech社長その人は、非常にズングリしており斜視であるが、その身なりは清潔であり、さして泥や疥癬に身を汚していることも無ければ、さして堕落していることも無かった。Scottiが初めて上司の姿を目にした時には、その彼を凝視せずには居られなかった。Vanechは、まっすぐ見つめ返してきた。

 

「君は酷い格好だ。」その小男は顔を顰めた。「Black Marshに馬で行って、そのまま戻ってきたんだな? 家に帰って身なりを整えるように言いたいが、君に会うという方々が何人もここに見えている。君が彼らの困り事を解決できるように願うよ。」

 

それは決して誇張ではなかった。大名士で大富豪のCyrodiilが20人ほど彼を待っていたのである。ScottiはVanechの物よりもさえ大きなオフィスを与えられ、そして、彼は各人と会うことになった。

 

最初は、会社の顧客の中から、たんまり金を持った口やかましい5人の独立商人であり、彼らは、Scottiが通商路を如何様に改善する積もりであるのか知りたがった。Scottiは彼らに話を纏めた――主道の状態について、隊商の状況について、水に沈む橋について、そして、その他、辺境と市場の間の在らゆる障害について。彼らは、その全部を取り替え修理するように言って、そして、そのために必要な資金を与えた。

 

そして3ヶ月の内に、Slough Pointの橋は泥濘の中に姿を消した、大隊商は衰え弱り崩壊した、Gideonから伸びる主道は沼の水に完全に呑み込まれた。Argonianは、もう一度、昔の遣り方を使うようになった――個人用のイカダと、時には、少量の穀物を輸送するための地下急行を。Cyrodiilに到着するまで所要時間は3分の1の2週間になって、どの品も腐らなくなった。

 

Scottiが次に会うべき顧客はMaraの大司教であった。その心優しい男は、Argonianの母親が彼らの子供を奴隷商に売り渡すという話にショックを受けて、それは事実であるのかとScottiに鋭く尋ねた。

 

「残念ながら、事実です。」そうScottiが答えると、大司教はSeptim貨を彼にふんだんに与えて、その子供達の苦痛を和らげるため当該の属州に食料を届けるように、そして、その彼らが自分の身を助けるため物を学ぶ学校を改善するように言った。

 

そして5ヶ月の内に、Umpholloの荒廃したMaraの修道院から最後の書物が盗まれた。Archeinsが破産すると、その奴隷達は自分の両親の小農園に戻った。僻地のArgonianは、自国民族が熱心に労働するならば自身の家族を養うのに充分の栽培が可能であることを見出して、奴隷の買手市場は急速に衰退していった。

 

Black Marsh北部の犯罪増加を懸念していたTsleeixth大使はScottiの下を訪れ、彼自身も同様であるけれど、その他の多数のArgonianの亡命者に対する貢献を求めた。彼らは求めた――Slough Point傍の国境の帝国衛兵の増員、主道に沿って一定間隔で配置される魔法光源のランタンの増数、巡邏の詰所の増加、そして、Argonianの若者を啓蒙して犯罪に走らせないための学校の増設。

 

そして6ヶ月の内に、もはやNagaは街道に出没しなくなり、その強盗に出くわす商人は居なくなった。その盗賊は悪臭に満ちる内陸の沼地に引き上げ、その地にて、彼らは更なる幸福を覚えて、愛する腐敗と悪疫によって体質が改善した。Tsleeixthと彼の後援者は犯罪率の低下を大いに喜んで、「良い仕事を続けてくれ。」とScottiに更に金貨を与える程であった。

 

Black Marshは不毛であった(である)から、商品作物の大規模大農園の経営は常に維持できないだろう。〔しかし、〕Argonianであれ、Tamriel全土の他の誰であれ、Black Marshに於いて、ひたすら自ら望む所の物を作るという、その自給自足農業によって食べていける。「それは悪い話ではなく、」Scottiは思った。「むしろ、良い話であるのだ。」

 

各人の難問に対するScottiの解決は同様であった。彼に与えられた金貨の1割はVanech建設会社に渡った。その残りは彼の取り分になった――必ずしも、そう頼んだ訳ではないけれど。

 

そして1年の内に、Decumus Scottiはタップリと金を使い込み非常に快適な隠居生活に入った。そして、Black Marshは、これまでの40年間に比べて暮らし向きが向上したのであった。


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